減速を極める |
燃費を向上させるには無駄になるエネルギーを減らすことが最も効果的です。
その為には周囲の状況をよく把握して、無駄の少ない走行パターンを考えて走る訳ですが、その上で最もエネルギーを無駄にしやすい減速時について考えてみましょう。
いろいろな減速方法
まず、一定速度から減速する事を考えた場合、どんな方法があるでしょうか?
一般的には「減速時はエンジンブレーキを使って燃料カットを働かせると燃費が良くなる」と言われています。しかし、走り全体を捉えて考えてみると実はそれがベストではなく、他の方法の方が良い場合もあるのです。
さて、それは一体なぜなのか。またどういう減速方法を選ぶのが良いのかを、順番に解説していきたいと思います。
エンジンブレーキと運動エネルギー
では、エンジンブレーキを使っている時、車はどんな状態になっているかを考えてみましょう。
エンジンブレーキ時、エンジンは車軸の回転力によって回されています。そのため、燃料が供給されていなくてもエンジンは止まりません。
そのかわり、エンジンは車の運動エネルギーからエンジンを回す分のエネルギーを奪っています。
車は運動エネルギーを奪われると、徐々に速度が落ちていきます。
さらにシフトダウンするとエンジン回転数が上がります。するとエンジンはより多くのエネルギーを奪うことになるので、車はより強く減速する事になります。
エネルギーに注目
ここで、エンジンを回すのに必要なエネルギーに目を向けてみましょう。
エンジンは燃料を燃焼させたエネルギーを回転力に変換する為の物ですが、実際はエンジン単体を回すのにもエネルギーを必要としています。
走行中であっても、エンジンブレーキ中であっても、常にエンジンは回転数に応じたエネルギーを消費しています。(シリンダーの摩擦ロス、ポンピングロス等)
そのエネルギーは必ずどこかから調達して来なくてはなりません。つまりガソリンを燃焼させて得るのか、駆動軸から得るのかという事になります。
そして、燃料を燃やして得たエネルギーが余れば車を加速させ、足りなければ車は減速するわけです。
この考え方は、加速、巡航、エンジンブレーキ、アイドリング、エンジン停止にかかわらず、全て同じ様に当てはめる事ができます。
減速方法とエネルギー損失
これらを踏まえて、いろいろな減速方法をエネルギー損失が少ない順に並べると、以下の表になります。
減速度が少なく、なおかつ燃料消費量が少ない方法ほど、エネルギー損失が少ない事になります。
減速度:数字が多いほど運動エネルギーを捨てている
消費量:数字が多いほど燃料消費量が多い
■MT車、CVT車の場合
No. | 減速方法 (エンジン状態) |
エネルギー 損失 |
解 説 |
1 | ニュートラル+エンジン停止 (0rpm) |
減速度 1 消費量 0 |
これが最もエネルギー損失が少なく、エコラン競技でも使われている方法です。エンジンブレーキがかからないので、減速はとても緩やかです。エンジン停止しているので燃料消費もありません。 ※一般道では実行しないで下さい。走行中のエンジン停止は危険です。 |
2 | ニュートラル+アイドリング (700〜1000rpm) |
減速度 1 消費量 1 |
減速度はNo.1と同様。とても緩やかです。ただしアイドリング分の燃料消費があります。 MT車ならば一般道でも実行可能です。 |
3 | アクセルを緩める (1500〜2000rpm) |
減速度 1 消費量 2 |
巡航時よりも燃料噴射量が少なくなりますが、ゆっくりと減速します。 減速度をNo.2と同じと仮定すると、燃料噴射量はエンジン回転数を維持する分となります。 |
4 | アクセルを離す (1500〜2000rpm・燃料カット) |
減速度 3 消費量 0 |
エンジンブレーキがかかり、車は減速します。 No.3とエンジン回転数は同じですが、アクセルオフでポンピングロスが大きくなるため、理論上No.3よりエネルギー損失は大きくなります。 |
5 | シフトダウン+アクセルを離す (2000〜3000rpm・燃料カット) |
減速度 4 消費量 0 |
No.4よりも強いエンジンブレーキがかかり、車は減速します。 高い回転数に応じたエネルギーを捨てる事になります。 |
6 | フットブレーキを踏む (-rpm・燃料カット) |
減速度 5 消費量 0 |
これはエンジン回転数を問わず、最も燃費を悪化させます。 エンジンブレーキで燃料カットできる距離すらも短くしてしまいます。 |
No. | 減速方法 (エンジン状態) |
エネルギー 損失 |
解 説 |
1 | ニュートラル+エンジン停止 (0rpm) |
減速度 1 消費量 0 |
MT車と同様で、最もエネルギー損失が少なくなります。エンジンブレーキがかからないので、減速はとても緩やかです。エンジン停止しているので燃料消費もありません。 ※一般道では実行しないで下さい。走行中のエンジン停止は危険です。 |
2 | ニュートラル+アイドリング (700〜1000rpm) |
減速度 1 消費量 1 |
減速度はNo.1と同様。とても緩やかです。ただしアイドリング分の燃料消費があります。 ※トルコンAT車は故障の原因になる場合があります。実行する時は自己責任で。 |
3 | アクセルを緩める (1500〜2000rpm) |
減速度 1 消費量 2 |
巡航時よりも燃料噴射量が少なくなりますが、ゆっくりと減速します。 減速度をNo.2と同じと仮定すると、燃料噴射量はエンジン回転数を維持する分となります。 |
4 | アクセルを離す (1000〜1500rpm) |
減速度 2 消費量 1 |
車種によって違いはありますが、この回転域ではアクセルを離しても燃料カットされません。 ロックアップしていなければエンジンブレーキもあまり効かないので、No.2に近い状態と考えて良いでしょう。この場合車種によってはNo.3と逆転する事もあります。 |
5 | 2レンジ+アクセルを離す (2000〜3000rpm・燃料カット) |
減速度 4 消費量 0 |
エンジンブレーキがかかり、車は減速します。 この回転域ではほとんどの車で燃料カットされます。 そのかわり高い回転数に応じた運動エネルギーを捨てる事になります。 |
6 | フットブレーキを踏む (-rpm・燃料カット) |
減速度 5 消費量 0 |
これはエンジン回転数を問わず、最も燃費を悪化させます。 エンジンブレーキで燃料カットできる距離すらも短くしてしまいます。 |
これを見ると、エネルギー損失の多い減速方法ほどエンジン回転数が高い事に気付くと思います。フットブレーキはそもそも運動エネルギーを捨てる為のものなので言うまでもありませんね。
エンジンブレーキは次善の策である
エンジンブレーキはあくまでブレーキであり、燃料を燃やして得た運動エネルギーを、エンジンの抵抗を使って捨てているだけなのです。たとえ燃料カットされていても、燃やしてしまった燃料は取り戻せません。
燃料カットはその時間にアイドリングで消費するはずの燃料を節約できるというだけなのです。
また、アクセルオフだけで燃料カットされていれば、さらにシフトダウンしてエンジン回転数を上げる事は無駄にしかなりません。フットブレーキを踏むのと同じです。
エンジン回転数が高いエンジンブレーキは、車からより多くの運動エネルギーを奪います。
それで得られるものは、その時間あたりのアイドリング分の燃料が節約できるだけなのです。
それならば、前もってエンジンブレーキを使わなくても済むようなアクセルワークを心がけるほうが、何倍も燃料を節約することができます。 その為にはなるべく上位の減速方法を多く取れる運転をすれば良いのです。 エネルギー損失の少ない減速方法が多く取れる速度パターンほど、早めにアクセルを緩めたり、燃料供給を長くストップすることができるので、結果として燃費向上に繋がります。(図2) |
そして予想外の赤信号などで減速を強いられ、上位の減速方法では減速が不足する場合に限り、図3のようにランクを落とした減速方法に変更すると良いでしょう。 また、長い下り坂で速度が上がっていく時も「減速が不足する場合」と考え、ランクを落とした減速方法に変更してください。 |
現実的な運転法
とまあ、理想ばかりを書きましたが、現実には周囲の車も多く、急に割り込まれる事も多々あります。
こんな場合は潔くフットブレーキを踏み、シフトダウン+エンジンブレーキを使って、ほんの少しでも燃料を節約しましょう。
日常の運転でより上位の減速方法を行う為には、やはり周囲の状況をよく把握して先読みし、十分余裕を持って運転することだと思います。
普段から燃費走行を心がけている人は気付いていると思いますが、燃費に理想的な走行パターンと実走行で許される走行パターンにはかなりの違いがあります。
自分だけはるか遠くの信号のタイミングに合わせてチンタラ走っていると、後続車に「さっさと走れ!」と怒られるかもしれません。
しかしそこを工夫して、理想的な走行パターンをいかにうまく周囲にとけ込ませるかが、燃費向上ドライビングの面白い所でもあると思います。
■追記
このページは以下のスレッドを参考にしてまとめさせて頂きました。
書き込み下さった方には感謝しています。
・エンジンブレーキ
・フューエルカット