CAMPで燃費解析

定速巡航と波型巡航

 一般的に「巡航する時はできるだけ一定速度で走るほうが燃費がいい」と言われています。
ところが、燃費関係の掲示板等では「加速と減速を繰り返したほうが燃費が良くなるのではないか?」という意見を見かける事があります。
これは、エンジンの効率が良い部分を使って加速し、後はエンジンブレーキで燃料カットすることで燃費を良くしよう、という狙いがあるのですが、果たして実際の所はどうなのでしょうか。

そこで読者の方から同様の質問を頂いたので、比較データを作成してみる事にしました。

比較内容
50km/hの一定速度での巡航と、45km/hから55km/hの間で加速⇔減速を繰り返す波型巡航の燃費を比較する。
加速はややゆっくりめの加速とし、減速方法はエンジンブレーキ、ニュートラル、エンジン停止の3つの例で行う。
なお、走行距離と平均速度が同じになるよう配慮し、共に速度が50km/hになったポイントで開始、終了としました。


比較1 定速巡航と波型巡航
 図1は50km/hでの定速巡航と、45km/h⇔55km/hの加減速を繰り返した波型巡航との比較です。
燃料噴射量を見てみると、定速巡航では平均的に40cc/min程度噴射されているのに対して、波型巡航では加速時100cc/min、減速時は完全に燃料カットされているのがわかります。



そして図2は速度に平均燃費を重ねたものです。
定速巡航が21km/L付近に落ち着いているのに対し、波型巡航ではアクセルON/OFFに合わせて大きく燃費が上下し、徐々に変化が少なくなっています。



結果は定速巡航が21.16km/L、波型巡航が16.69km/Lとなり、波型巡航が21%も下回る結果となりました。


比較2 減速時ニュートラルにするとどうなるか
 次に、比較1と同じ条件で、波型の減速時にニュートラルにするとどうなるかを試してみました。
図3がそのグラフです。
加速時は比較1と同様ですが、減速時にエンジンブレーキが効かない為、非常にゆっくりと減速しているのがわかります。そのかわり、アイドリングの為に9cc/minの燃料噴射をしています。



そして図4は速度に平均燃費を重ねたものです。
加速時は比較1と同様、大きく平均燃費が落ちますが、減速時に速度が落ちにくいため平均燃費がぐっと持ち直しているのがわかります。



結果は定速巡航が21.16km/L、波型巡航が20.95km/Lとなり、両者の差はほとんど無くなりました。


比較3 減速時にエンジン停止するとどうなるか
 次に、比較2と同じ条件で、波型の減速時にエンジン停止するとどうなるかを試してみました。
図5がそのグラフです。
速度変化は図4と全く同じですが、減速時にエンジン停止している為、アイドリング分の燃料噴射がありません。
ちょうどエコラン競技のような走り方になっていると思います。



そして図6は速度に平均燃費を重ねたものです。
加速時は比較2と同様、大きく平均燃費が落ちますが、減速が緩やかで、なおかつ燃料消費ゼロのおかげで、平均燃費がぐんぐん上がっていくのがわかります。



結果は定速巡航の21.16km/Lを大きく上回り、波型巡航が24.48km/Lとなりました。


結果
定速巡航 波型巡航
エンジンブレーキ ニュートラル エンジン停止
平均燃費 21.16km/L 16.69km/L 20.95km/L 24.48km/L
平均回転数 1358rpm 1681rpm 1220rpm 714rpm
燃費比率 100% 79% 99% 116%

というわけで、結果はエンジンブレーキを使うのが一番悪く、ニュートラルでほぼ定速巡航と同じ、エンジン停止で16%上回るということになりました。

この差はどこから来るのか
 さて、何故このような結果になったのでしょうか。
車の平均速度が同じだった場合、多少の加速減速を伴ったとしても、必要な駆動力の合計はほとんど変わりません。
空気抵抗についても、速度が低いのでほとんど無視できるレベルでしょう。

考えられるのは、エンジンの平均回転数に違いがあるということです。
エンジンは、ガソリンを燃焼させたエネルギーを回転力に変換するものですが、実際はエンジン単体を運転するのにもエネルギーを必要とします。
当然、高回転で運転するほうがエネルギーを多く必要とするわけです。

比較1でエンジンブレーキを使った場合は、エンジン回転数が高くなっています。当然、減速時は燃料が供給されていませんから、エンジンをその回転数で回す分のエネルギーを、車の運動エネルギーから奪うことになります。

比較2でニュートラルにした場合は、運動エネルギーからエンジンを回すエネルギーを奪う事はありません。そのかわりエンジンをアイドリングさせる分のエネルギーをガソリンを燃焼させることで得る必要があります。

比較3でエンジンを停止した場合は、エンジンを回すエネルギーを奪われる事もなく、アイドリングする為の燃料も必要ないため、大幅に燃費が良くなったという訳です。

ただし、実際には加速するたびにエンジンを再始動する必要があります。その分のガソリン消費量を加えると確実に燃費は低下するでしょうし、一般道で走行中にエンジンを止めて再始動を繰り返す事は非常に危険ですから、あくまで「計算上ではこうなった」という事にしておいて下さい。


というわけで
 一定速度で巡航する場合は、出来るだけエンジン回転数を低く保てるように運転するのが良いと思います。
その為には、無駄な加速や減速を減らし、アクセル開度を一定に保つ必要があります。

 そもそもエンジンブレーキというものは、燃料を一滴も消費しない代わりに、車の運動エネルギーからエンジンを回す為のエネルギーを奪っているわけです。だから速度が落ちるのです。
減速すべきでない状況なのに無理にエンジンブレーキで減速し、走り続けるためにまた再加速するのであれば、エンジン回転が高くなった分のエネルギーを無駄にしているだけ、という事になります。
本来フットブレーキを使って行うべき減速をエンジンブレーキに置き換える場合は、燃費改善に繋がると考えて良いでしょう。